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シリーズ2―会社でのうつ病対策はどうすればいいの?
「心の健康づくりシンポジウム」取材報告だ・よ・り


同僚のことで悩んでいます。最近めっきり無口になり、落ち込んだ様子が続いています。食欲がなく、顔色も悪いです。定期健康診断では、身体に異常はないとの結果でした。もしかしたら、うつ病ではないでしょうか。とても心配です。直属の上司は「うつ病なんて怠け病だ」と平然と言う人です。誰に相談したら良いかわかりません。
(二七歳 女性 会社員 本人の許可を得て転載)

イラスト 最近、私のもとに届いたメールです。ほかにも、職場の同僚、部下、上司のうつ病らしき症状に気づき、「どうしたらよいかわからない」「どこに相談すべきだろうか」と悩むメールが多数届いています。

 そこで、職場でのメンタルヘルス・ケアの取り組みについて調べるため、2002年2月28日に東京都内で開かれた『こころの健康づくりシンポジウム 〜独りで思いつめさせないために〜』を取材しました。シンポジウムの主催は厚生労働省と中央労働災害防止協会です。会場はほぼ満員で、ざっと見ただけで1000人以上、半数以上が30〜50代の男性でした。平日の昼間の開催ですから、仕事の一環として来場した方が多かったと思われます。メンタルヘルス・ケアへの関心の高さを実感しました。



[シンポジウムの発表内容]
 企業として、社員のこころの健康づくりに取り組むことは、労働者の“労働の質の向上”につながり、企業自体の生産性及び、活力の向上に寄与します。またこの逆に、職場でのストレスが原因となり社員のこころの健康が損なわれた場合、作業効率の低下や長期休業により、労働力の損失となります。このように、企業として社員のこころの健康問題に取り組むことは、社員の健康管理というだけでなく、生産性向上という観点からも意義があります。

 職場でのストレスは、うつ病の要因の一つとなります。そのため、社員のストレス状況を把握しようと、ストレス・チェックを実施する企業が増えています。しかし、このようなこころの問題への取り組みは個人のプライバシーに深く関わるため、企業単位で実施するときは細心の注意を要します。
シンポジウムでは、医師やカウンセラーらが、『職業性ストレス簡易調査票』『仕事のストレス判定図』といったストレス・チェックの実施方法や対応方法について発表しました。

東京医科大学の下光輝一教授の発表より

 職場でストレス・チェックを取り入れることは重要ですが、実施する前に以下の点に注意しなければいけません。

社員に目的を伝える
回答は秘密だと保証する
回収の際には封筒に入れたり、表紙をつけるなど配慮する

 あえて無記名で行なってもよいですし、回収しないというのも一つの方法です。つまり、セルフ・ケアとしての利用です。セルフ・ケアの一環として自分で記入・採点するだけでも、社員が自分のストレスに気づくきっかけになります。

<セルフ・ケアとは>

 社員自らがこころの健康づくり対策のために行う活動です。企業が情報提供などにより、社員が積極的にセルフ・ケアを実施できるようにサポートすることも大切なことです。
 実際に紙に記入するタイプのセルフチェックなどは採点に手間がかかるため、社内イントラ・ネットがあれば活用したほうがよいでしょう。またインターネット上にも、簡単にチェックができるサイトがあります。


日本電気株式会社の府中事業場の発表より

 日本電気株式会社の府中事業場では、労働組合の合意を得て、定期健康診断の中にストレス・チェックを取り入れています。
 その結果、ストレスを感じている社員の数は30才代に第一のピークがあり、50才代に第二のピークがあることが分かりました。
 30才代の社員でのストレスが高くなっているのは、入社10年前後で主任クラスになり責任が重くなることが原因と考えられます。
 また、同事業者では平成13年8月から、長時間残業者を対象にして特別健康診断で『職業性ストレス簡易調査票』を行っています。
(職業性ストレス簡易評価ホームページ:
http://www.jisha.or.jp/frame/index_org_stls.html
 調査票を提出した271人のうち142人(52%)にストレス要因があり、この中の83人(31%)に疲労感・不安感・抑うつ感などのストレス反応が見られました。また、前月までの3カ月間で毎月連続60時間以上、または前月に90時間以上の時間外勤務を行っていた103人のほとんどが、仕事に働きがいを感じつつも、ストレスによる精神的不調を抱えていました。

岡山大学の川上憲人教授の発表より

職場におけるメンタルヘルス・ケアは、大きく分けて二つの柱があります。

個人面からのアプローチ(社員のストレス対処など)
  ----------セルフ・ケア
職場からのアプローチ(ストレス要因の除去あるいは低減)
------ラインによるケア

 職場でのメンタルヘルスを考える場合、個人的ケアだけでは対応できないケースもあります。
 実際に、仕事にストレスを感じている労働者が多い部署には、仕事量や残業が多いなど、職場自体に何らかの要因が潜んでいるケースが多くあります。そのため、部や課など“職場単位”でのストレス対策をサポートするための『仕事のストレス判定図』というものがあります(http://eisei.med.okayama-u.ac.jp/jstress/hanteizu/)。
 これは、職場環境におけるストレス要因を調べるための一つの目安になります。“職場単位”でこのような調査を実施することで、職場環境におけるストレスの特徴を知ることができ、職場環境を改善するための手がかりを得られます。ただし、管理者のあら探しや批判の材料にしたり、人事考課に反映させてはいけません。あくまでこころの健康づくり計画の範囲で行なってください。
 また、『仕事のストレス判定図』は無記名でも行なえます。自分の氏名を記さないことで、社員の本音が現われやすいという面もあります。

「仕事のストレス判定図」を職場で用いた例

あけぼの会メンタルヘルスセンター 長見まき子臨床心理室長の発表より

 (医)あけぼの会メンタルヘルスセンターは、社員のこころの健康に関わる問題を企業と連携して行なう従業員援助プログラムEAP(Employee Assistance Program)を実施しています。
 同センターがEPAによる『仕事のストレス判定図』の調査を実施して、職場環境の改善に至った例を紹介します。
 某メーカーの部品加工・組立ラインで、ある社員がうつ病で休職しました。『仕事のストレス判定図』を行ったところ、仕事の量的な負担が高く、上司のサポートが不充分だと判明しました。さらに現場でヒアリングをすると、


仕事の量的な負担
  このラインは組立ての最終工程で、前の工程の遅れを取り戻すために多忙を極めていた
上司のサポートが不充分
作業場のスペースの都合上、管理監督者は別フロアにいた

 上記のような問題点が明確になりました。この結果をもとに管理監督者、ライン長、衛生管理者らが対策検討会を開き、職場のレイアウトを変更し、管理監督者と作業員を同じフロアにして、作業分担も見直すなどの対策を実施しました。

 職場には一人の社員のセルフ・ケアだけでは解決しきれない問題が多々あります。企業が行なうストレス判定は、社員の心のケアだけでなく、職場環境の改善も視野に入れるべきです。


こんな職場は危ない!

残業や休日出勤が多い
日常的にサービス残業がある
身体や心の病気にかかる人が続出している
胃潰瘍の手術痕を自慢しあう
残業や休日出勤を仕事自慢のネタにする
睡眠時間の少なさ、仕事での徹夜を自慢しあう

 これらは危険因子です。1つ以上当てはまる方は、定期的にセルフチェックを行なうことを勧めます。
職場で当てはまる項目の多い方は、日頃から個人的にこころのセルフチェックなどを行い、メンタル・ヘルスをこころがけるようにしましょう。
こころの病気のセルフチェック>>


 『心の健康づくりシンポジウム』を主催した中央労働災害防止協会は、近年、職場のメンタルヘルス・ケアに力を入れています。事務系の社員や管理職から対応できる人材を養成する講座、事業主向けの講座などが各地で開かれています。詳細はこちらをご覧ください。
http://www.jisha.or.jp/index.html


● 社外の相談先
地域産業保健センター
産業医がいない小規模事業所に対する相談、助言、情報提供。
健康保険組合
健康保健組合所属の医師、保健婦や看護婦が、独自にストレス・チェックや心の健康相談を実施。
労災病院
勤労者メンタルヘルスセンターがストレス関連の病気の診療や相談に対応。
http://www.rofuku.go.jp/rosai
地域の保健機関
精神保健福祉センター、保健所、市町村の保健センターが個別の相談に対応。

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