講演録

 “うつ、睡眠、アルコールの深〜い関係”
 「うつ病を知る日」市民公開講座 講演録

これは、一般社団法人うつ病の予防・治療日本委員会(JCPTD)、日本うつ病学会の共催により平成25年10月27日に東京で開催された市民公開講座「うつ病を知る日」*の講演内容を広く国民の皆様にも知っていただくために講演録として情報提供するものです。

テーマ
“うつ、睡眠、アルコールの深〜い関係”
講演
1.うつ病の上手な予防と治療
  野村総一郎 防衛医科大学校病院院長
2.アルコールとうつ病の深〜い関係
  松下幸夫 国立久里浜医療センター副院長
3.睡眠とうつ病の深〜い関係
  三島和夫 国立精神・神経医療研究センター 精神生理研究部部長
司会
樋口輝彦 一般社団法人うつ病の予防・治療日本委員会 副理事長
国立精神・神経医療研究センター 総長
 

 ご挨拶 樋口輝彦

皆さま今日は。私は、一般社団法人うつ病の予防・治療日本委員会の副理事長を務めております樋口と申します。私どもは、毎年この10月の第一土曜日を「うつ病を知る日」、10月を「うつ病を知る月間」として、うつ病に関しての市民公開講座や専門相談会を全国各地で開催しています。ご承知の方もいらっしゃると思いますが、アメリカ合衆国では、一年に一回、各地でうつ病をチェックする日が制定されており、市民の皆さんが自ら、うつ病のチェックリストを使用してうつ病ではないかチェックをし、またその相談を受けるこころの健康をチェックするイベントがずいぶん長く続けられていると聞いております。わが国では、2010年より全国各地で「うつ病を知る日」としてうつ病を広くご理解いただくための活動をしており、毎回いろいろなテーマを取り上げています。たとえば、うつ病とはどのような病気なのか、うつ病予防に日常気を付けること、うつ病にかかったときの対処法、薬物治療や認知行動療法など薬物以外の治療法、職場のうつ病、うつ病から職場へ復帰するためのプログラム、また最近ではいわゆる現代型うつ病も取り上げています。

本日のテーマは、うつ病と大変関係の深い睡眠とアルコールの問題です。うつ病になると必発の症状として睡眠障害がでてきます。また、うつ病の初期には憂うつな気分や不眠の解消策としてアルコールに頼り、なかにはアルコール依存症になってしまわれる方もしばしば経験いたします。本日は、うつ病の全般についての講演のあとに、睡眠とアルコールの問題をそれぞれ専門の先生にご講演をいただきます。講演の後には質疑の時間を設けていますので最後までお付き合いください。簡単ですがご挨拶といたします。

 

 うつ病の上手な予防と治療  野村総一郎

私は、うつ病の基本的なお話をいたします。先ず、憂うつの意味を、次にうつ病と双極性障害、最近よく話題になるいわゆる現代型うつ病について、最後に治療としてうつ病に陥りやすい考え方をどのように正すことでうつ病を予防ができるのか、また少し認知行動法についても触れたく思います。

≪憂うつの意味≫

人間の心を悩ませる心理として、憂うつと不安という2つがあると思います。この2つは日常、誰でも経験するものであり、また病気の症状でもあることからその違いを少し整理したいと思います。憂うつというのは、気持ちが暗くなる、気力がなくなる、物事に非常に悲観的で後ろ向きになるという3つの要素で成り立っている心理です。不安は怖い、何か心配である、何か悪いことが起こるのではないか、イライラする、心臓がどきどきするなど身体に現れる現象で構成されるこれから先に対しての心理であって、未来にかかわることです。それに対して憂うつは、過去に対するこだわり、後悔に関わっています。いずれにしろ、非常に苦しいものであり、こういう心理はない方がいいと思われるかもしれませんが、決してそうではないということからお話ししようと思います。

実は、不安や憂うつという心理は、古典的な進化論でいいますと人間という種が生き残っていく上に非常に大事なものです。つまり、進化して残った太古の叫び声であると私は思います。不安というのはどういう意味か、なぜ不安が必要なのか。これは未来に対するものだといいましたけれども、これから来る危険を察知する能力、そして危険から取りあえず逃げるという能力、この2つを前提として不安が起こっていて、不安を感じないと危険なので、例え話をすれば、周りの草を食べているウサギはキツネに食べられてしまう危険性があります。臆病なウサギはキツネの臭いがちょっとでもしたり、キツネの足跡を見つけると、キツネが来るのではないかと非常に不安になり、穴の中に入ってお腹がすいても出てこなくなります。ウサギはちょっと痩せますが、その代わりキツネに食べられることはない。一方で、不安を感じないウサギもいます。勇敢なウサギで、少々キツネの臭いがしても餌があればそこに行って食べた方がいい、大丈夫、大丈夫と不安を感じない、非常に勇気のあるウサギです。しかし、この勇気のあるウサギはキツネに食べられて、死んでしまうから子孫を残せない。昔は勇気のあるウサギと不安を感じるウサギの2種類がいたと思いますが、勇気のあるウサギ達は全部食べられてしまい、今日残っているすべてのウサギは不安を感じるウサギと考えれば分かりやすいと思います。

では、憂うつを同様に考えるとどのような意味があるのでしょうか。これは少し分かりにくいです。憂うつになると自然界で生きていけなくなるから、何の役にも立たない症状だと思われるかもしれませんがそうではありません。動物にもよりますが、犬を飼っておられる方はおわかりでしょうが、犬はすぐに憂うつになりますね。ご主人がいなくなったり別れたりすると犬は非常に憂うつになるという感じがします。だから、おそらく犬にとって憂うつというのは何かの役に立つのだろうということが考えられます。それがどういう役に立つのか子細は省略しますが、次の4つのことだと私は思っています。一つは、一度立ち止まって休む。動物は憂うつにならないと立ち止まれない。二つ目は、無理をしない。動物はいろんな点で無理をすると危険です。三つ目は、あきらめるということです。動物にとっても環境が変わったときはあきらめて、リセットすることが大事です。人間にとっても同様です。「こだわり」を捨ててあきらめるということは大事です。四つ目は、助けを求めるということです。例えば、オオカミは群れで住んでいても仲間内で助け合うことはせず、自分だけで生きているそうです。しかし、ケガをして歩けなくなったオオカミは非常に憂うつになり、うつ病みたいな感じで座り込んで何もしなくなるそうです。そうなると、この憂うつになったオオカミだけは例外であるとして仲間が餌を持って助けに来るという行動がみられるそうです。つまり、憂うつには助けを求めるという意味があると思います。

ただ、不安にしても憂うつにしても「過ぎたるは及ばざるが如し」で行き過ぎては良くありません。行き過ぎては病気になります。ちょっと違う例をいいますと、風邪など感染を起したときには熱が出ます。これは、細菌やウィルスは熱に弱いので体温を上げてそれらをやっつけてしまうという意味があります。私たちは健康であれば熱は出るようにできており、熱が出ることは悪いことではありません。しかし、40度以上の熱が一週間も続けば人間の体力は落ち、死ぬこともあります。憂うつも同じです。憂うつは必要ですが、過剰であれば病気と考えられることになります。

≪病気としての憂うつ≫

では行き過ぎとは何か、すなわち病気としての憂うつの定義が必要になります。3つあります。一つは憂うつの程度で、非常につらくて、生活に支障がでていることです。二つ目は期間です。強い憂うつでも3分間であれば大したダメージにはなりません。今、世界的に共通した期間は2週間以上憂うつが続いていることです。三つ目は考え方のゆがみです。妄想的といういい方は適切ではありませんが“分からないことはないけれども、そこまで考えなくてもいいんじゃないか”という程度の考えのゆがみです。例えば、私の患者さんでごく普通のサラリーマンの方がうつ病になられ、“自分は本当に罪深い人間だ、どうしようもない悪い人間だ。会社に迷惑を懸けて、世の中に迷惑をかけている。デフレ不況が続いているのは自分のせいである。今の日本経済が悪いのもすべて自分のせいである。消費税が上がるのも自分のせいである」といわれます。これを総理大臣がいうのであれば理解できますが、サラリーマンとして「あなた、それはちょっと考え過ぎじゃないの“と周りの人が言っても、”いや自分は罪深い、死んでおわびをしなければいけないぐらい日本を駄目にしている“と言って譲りません。そんなに考えなくても良いではないかといいたくなりますが、これは考えにゆがみがあるためです。今日は細かな定義はお話ししませんが、これらが揃ったときにうつ病と考えられます。

≪うつ病と双極性障害≫

憂うつを主身体とする病気は、大きく分類しますとうつ病と双極性障害の2つがあります。うつ病は憂うつ状態だけを示しますが、双極性障害(躁うつ病)は憂うつ状態とこれと真反対の元気があり過ぎる躁状態の両方を示す病気です。この2つはまったく違う病気であり、区別すべきものだと最近は考えられています。

うつ状態と躁状態を比較しますと多くの違いがあります。気分は、うつ状態は憂うつで楽しめないが、躁状態はハイな気分で楽しむどころか行き過ぎた楽しみになる。食欲は、うつ状態は食欲がないけど、躁状態はバリバリ食べる。気力は、うつ状態は無気力で動きは低下し、疲労感が非常に強くでて身体のあちこちの調子が悪い、これに対して躁状態は気力があり過ぎて、動き過ぎます。

こういいますと躁状態は良いことづくめではないかと思われるかもしれませんが、そううまくは行きません。躁うつ病は、自分が困るというよりも周りの人が困る、付いていけなくなり、結局信用をなくして自分も損をする。そして、その後必ず現れるうつ状態では過剰に躁状態のときのことを反省する、これが問題です。まだ続きがあります。うつ状態は自分を責め、躁状態は自分を褒めます。自分を非常に立派な人間だと思い、天才だとかノーベル賞を取るとか褒めます。うつ状態は不眠です。躁状態も寝ないことにおいては同じですが、不眠に悩むのではなく寝る必要性を感じず、寝ずに騒いでいる状態です。うつ状態では自殺願望があるが、躁状態にはない。飲酒についてもパターンが違います。うつ病の非常につらい、苦しい状態から逃れたい逃避目的の飲酒に対して躁状態は非常にハイですから、調子に乗って飲酒する。うつ病と躁うつ病は大まかにはこのようにほぼ正反対の状態と言えます。

うつ病と躁うつ病(双極性性障害)の経過を比較してみましょう。うつ状態は波が普通より下がり、躁状態は上がるとしますと、普通の人は軽い上下の波があります。波があるから良いのであって、まったく波がなければ人間じゃなくてロボットです。ところがうつ病では、普通であれば「あれ、ちょっと調子が悪い」といった状態であったときに、一気に落ち込み、一定期間憂うつ状態が続いたあとに普通に戻り、また落ち込み、戻るといった経過をたどります。一方、躁うつ病の多くがうつ状態から始まります。強いうつ状態から回復して良かったと思う間もなく躁状態になったりしてしまいます。うつ病と躁うつ病の治療法は異なりますので、早く診断をつけなければならないのですが、躁状態が出るまでは両者の区別は難しいのです。

≪いわゆる現代型うつ病・新型うつ病について≫

最近、現代型うつ病や新型うつ病という言葉を耳にしますが、学会や正式な会合で新たに出現したタイプのうつ病、新たな病名として認められたわけではありません。ほぼマスコミ用語で、意味するところは職場でみられるかつてとは違うタイプのうつ病であるということです。かつてのタイプというのは、几帳面で真面目な人がかかるというイメージが崩れてきたのではと思います。また、うつ病は、“私が悪いから世の中がこういうふうになった”と自分を責めるのが特徴ですが、現代型うつ病ではむしろ“あいつのせいでこうなった”、“会社のパワハラでいじめられてこうなった”と他人のせいにする方が多くなりました。それが事実であったとしても、今までのうつ病の方であれば“自分が悪いからいじめられることになった”といい、他人のせいにする方は少なかったと思います。さらに、欠勤、休職していても週末になるとスキー、海など遊びや趣味は活発に行うといわれています。抗うつ薬の効果は、うつ病に対しても40〜50%ですが、現代型うつ病にはほとんど効果がありません。私は、これらから新らしい型のうつ病が出たというよりも、日本人自体が変わったのではないかと思うことがあります。つまり日本人の国民性は真面目人間で、自分で責任をとり、大した趣味もなく、仕事一本というタイプだった。ところがそれが変わってきたために、今うつ病になるとこれは現代型だといわれるのかもしれないと、間違いかもしれませんがそう思っています。つまり、世代を超えて社会に不安が非常に高まり、いわゆる生き方モデルがなくなってきた、お手本になるような人がいなくなってきたということにも関わる。また、現代人は豊かさから出発しています。特に若い人は基本的には便利で快適な環境から出発している。これから這い上がり、お金をもうけて出世するという攻めよりも、むしろ今の生活をどう守るかということに精一杯になっている。その守りが破たんしたときには現代型うつ病の形をとりやすくなる。問題も多かったと思いますが東アジアの基本にあった儒教倫理が崩壊し、それに代わる思潮のない現代がこのようなタイプの人を生み出しているような気もします。

現代型うつ病の意義と注意点を再考してみます。現代型という表現は良くない、学問的じゃないと私は必ずしも思いません。なぜなら、うつ病の診断が症状を基にした機械的な方法になっている現状に対するアンチテーゼとしての意味です。すなわち、その方の背景にある心理的、社会的、性格的な問題に目を向けた診断、治療が求められているのではないかと思うからです。薬物中心のうつ病治療に対して、薬物に力点を置かないケースもあり得るということを教えてくれたのではないか。また、治療は受け身ではなくて、患者の主体性が必要だという気付きです。一方、注意点もあります。現代型うつ病の捉え方として、自分勝手だ、甘えに過ぎない、性格が悪いのでは、結局甘えているのだといった偏見・差別的なマイナスイメージが強調され過ぎていないかという点です。感じが悪い、けしからんといった感情的なものではなくて、うつ病の一つのタイプとして先ず医学的な診断が必要だと思います。

≪うつ病治療の構造≫

世の中には極端なことをいう人がいて、うつ病に医療は不要であるといったことをいう人もいます。私は極端な意見はあまり好きではありません。診断、治療といった医療の関与は必須だと思います。例え薬物の効果が40%前後としても良く効くケースがあるということは、それらの人に対しては医療の必要性を示しています。ただ、薬物効果のない人に漫然と服用をさせる、あるいは効果が悪いから量を増やしたり、薬剤の種類を増やすことに意味はないと思います。したがって、最近は薬物療法のみに頼るのではなく、臨床心理士や保健師さんと連携した精神療法を合わせて行うチーム医療が始まっており、日本うつ病学会もこの方向性に賛同しています。

≪いかに予防するか≫

予防をどうするかという話です。最初に話しました憂うつ本来の生物学的な意味がヒントになると思います。私は患者さんに次のことをよくいいます。「いい知恵を出すにはまず休まなければならない」、「待てば海路の日よりあり」つまり焦らず待つこと。「三寒四温は春の便り」良くなったり悪くなったりということは春の便りだと。「春雨じゃ濡れて行こう」これは歌舞伎の月形半平太の言葉だったと思いますが、雨は降ってくるが春の細い雨であれば傘は要らない、濡れて行こうということです。つまり、物事はかくあるべしではなく、かくある事実を受け入れようということです。うつ病から回復してくる過程で、家族、隣近所の人、上司、私も含めて主治医からいろんなことをいわれます。特に、慢性でなかなか治らない人に対して人間はこうあるべきだ、こういうふうにしなきゃいけない、そうしなければうつ病は治らないといったことを。そうしますと、傷付き、こうしなければならないと思い傘で武装してしまう。長年それが積もり積もると、これができない、これができる、そして自分は駄目なことばかりだと思ってしまいます。だから、“こうあるべき”ではなく“かくある事実を受け入れた方がいい”と助言してあげることも大事だと思います。そして、患者さんも助けを求めるべきですし、その求め方もいろいろあると思います。うつ病に陥りやすい考え方を認知行動から挙げてみたいと思います。認知行動療法ではマイナス探し、レッテル貼り、過剰な一般化、こころの読み過ぎといった言葉がよくつかわれます。うつ病になりやすい人マイナス探しだということは、うつ病の方と付き合っていて私もよく感じます。生きていれば良いこと悪いこといろんなことがありますが、うつ病の方はマイナス面を探っていきます。上司が、良くやったと褒めると、周りを意識して褒めているなと思って素直に喜べない。レッテル貼りは、人が貼るのではなく、自分で貼るということです。誰かが言ったわけでもないのに自分は馬鹿だ、駄目だ、ブスだ、脚が短い、もてない、教養がない、品がないなど自分勝手にレッテルを貼る。レッテルを貼ることはまだ良いとしても、何か悪い事態が起こったときにそのレッテルに原因を求めてしまうことに問題があります。例えば、自分は教養がないとレッテル貼りをしている方が上司に叱られると“ああ、教養がないから叱られちゃうんだ”、財布を落とすと“ああ、教養がないから財布を落とすんだ”と教養と財布は関係がないにもかかわらず結び付けて考えてしまうことに問題があります。過剰な一般化というのは、たまたま石につまずいて転ぶと、“こんなところに石を置いたのは誰だ”と怒ればいいのですが、“またやってしまった、何をやっても駄目だ”、“歩くことすらできない”など次々とマイナス面に考えて、たまたま起こったことを過剰に一般化してしまうことです。うつ病の予防には、このような受け取り方、考え方を正していくことも大事だと思います。また、うつ病経験者の手記や著書に共通して書かれていることは、非常に平凡ですが “無理をしちゃいけない”、“限界を知る”ということです。なぜ限界を超えて無理をするのかといったら、自負心の問題に突き当たります。“自分はこれをやらねばならない”、“自分はこれをやる能力がある”などのこだわりであり、これを捨てなければいけません。ジャマイカ主義という言葉があります。これはジャマイカの海岸でのんびりしているという意味もありますが、何かやらなきゃいけないとあまり固く考えなくて、“じゃ、まあ、いいか”ということで、のんびり考えろという意味です。たまたまジャマイカの陸上選手ボルトが金メダルを取った後、私の患者さんにジャマイカ主義で行こうと言ったら、“頑張れば私も金メダルを取れる”と誤解されました。そうではなく、“ボルトのように走る必要はないんだ”といいたかったのですということがありました。

皆様、ジャマイカ主義で行きましょう。どうもありがとうございました。


≪睡眠関連のお勧めWebsite≫

こころの耳
http://kokoro.mhlw.go.jp/
 

 うつとアルコールの深〜い関係  松下幸生

今日は、アルコールによる問題、アルコール依存症、アルコールとうつ病、自殺とアルコールの関係、アルコール問題への対応についてお話しをいたします。

≪アルコールによる問題のいろいろ≫

アルコールにかかわる問題を専門用語ではアルコール関連問題といいます。アルコール関連問題は出生前・乳幼児期、少年期・青年期、主として成年期以降とその時期に合わせて見ていくと整理が容易です。出生前・乳幼児期では、アルコールは非常に水に溶け易く、胎児のいるお母さんが飲酒すれば胎盤を通して胎児に入りいろいろな影響が現れます。一番心配なのは、胎児の中枢神経の発達に影響を及ぼすために少し知的な発達が悪い、あるいは小さな奇形を持って生まれます。これを胎児性アルコール症候群といいます。昔、女性はあまり飲酒しませんでしたが、最近は男性も女性も関係なく飲酒しますし、特に若い女性の飲酒頻度は高くなり、20代前半では飲酒者の割合は男性よりも高くなっています。若い女性のアルコール問題は、この胎児性アルコール症候群を含めて今後クローズアップされてくる可能性があります。少年期・青年期では、家庭内暴力など親御さんの飲酒が子どもの養育環境へ与える影響や未成年者の飲酒問題があります。成年期以降では、本人の健康上の問題、家庭や結婚の問題、職業上の問題、あるいは自殺を含む社会的な問題、そしてうつ病やアルコール依存症もこのアルコール関連問題の一つです。

≪アルコール依存症とは≫

ほとんどの方が、アルコール依存症という病名を聞かれたことがあると思いますが、その病気についての考え方やイメージは個々人で異なると思います。一般的にいわれるのは意志が弱いなど本人の性格の問題、酔って暴力をふるう、一日中酒を飲んでいる、ホームレスのようになる、精神病のようになるのが依存症と思われています。一方、アルコール依存症の方は飲まないときもあるから依存症ではないといいます。アルコール依存症は医学的な病名であり診断基準があります。重要な基本症状として「飲酒のコントロール喪失」と「身体依存」の二つがあります。一つ目の飲酒のコントロール喪失とは、今日は飲むまいと思ってもつい飲んでしまう、今日は止めようと思っていても夜になるとついビールを開ける、飲み始めると飲み過ぎるまで飲んでしまう、時間に関係なく飲む、量を減らそう、止めようとしても止められない。また、飲んべーの方は経験がるかもしれませんが、飲んでいたときのことをよく覚えていない、どうやって帰ってきたのかよく覚えていない、これをブラックアウトといいます。また、依存症の方の典型的な飲み方である一日中飲んでは寝て、飲んでは寝ての繰り返しになることを連続飲酒といいます。飲酒のコントロール喪失は精神的にアルコールに依存している症状の一つです。二つ目の身体依存は、アルコールの入っている状態に身体が慣れてしまい、お酒が切れると調子が悪くなる離脱症状が出ることであり、禁断症状ともいいます。早期の離脱症状には手の震え、発汗とくに寝汗、あるいは寝付きが悪い、夜中に目が覚めるなどの睡眠障害があります。手の震えはよく知られた症状だと思います。意外に知られていないのは汗です。依存症の方に聞きますとほとんどの方が夜中にパジャマの着替えを必要とするほど汗をかくといいます。末期になると離脱症状は強くなってきます。ボーとしている、トンチンカンなどの意識障害、小動物、虫、天井が動くなどの幻視、音楽、物音、人の声などの幻聴、けいれん発作などの症状があります。アルコール依存症で肝臓を悪くした入院患者さんの例で言いますと、入院1日目、2日目の夜は寝られず、3日目くらいからボーッとしてきて自分がどこにいるのか分からなくなる。入院しているにもかかわらずどこかへ行こうとしたり、あるいは点滴を引き抜いたりと少しお騒がせをするのが末期の離脱症状です。ボーッとするだけではなく、同時に幻視あるいは幻聴が現れることがあります。幻視というのは、これは不思議なことに小さな虫を見るということが多く、ベッドの上をたくさん虫が這っている、あるいは幻触といいますが肌の上を虫が這っているような感じがするといいます。また、けいれん発作を起こすことがあります。アルコール依存症の診断は表1に示す症状のうち3つ以上当てはまると、依存症と診断されます。

≪アルコールとうつ病の関係≫

次に、本日のテーマでもあるアルコールとうつ病はどのような関係にあるのかをお話しします。まずアルコールはうつ病を引き起こすのかということです。調査・研究では、大量飲酒はうつ病の原因になることが共通した結果ですが、少量の飲酒はむしろ良いとの報告と少量でもうつ病の原因となるとの報告があり結果は分かれています。入院したアルコール依存症の方の約4割にうつ状態が合併していますが、断酒によって軽快し、4週間後までうつ状態が残っている方は6%となります。アメリカの調査では、アルコール依存症の約50%がうつ病を合併しているという報告もあります。

うつ病と飲酒問題の合併は、時間的な関係で1次性あるいは2次性と分けることができます。1次性うつ病は、うつ病が先にあって後で飲酒問題が発生してうつ病+飲酒問題となるもので、うつ病が原因となります。2次性うつ病は、飲酒問題が先にあって、後にうつ病が発症したもので、これはアルコールが原因ということになります。アルコールがうつ病を引き起こすメカニズムは明らかではありませんが、考えられる原因としてアルコールが神経内分泌系に変化をもたらす、あるいはアルコールによる神経障害がうつ病に関連しているとする仮説があります。また、うつ病とアルコール依存症はその遺伝的背景が共通しているのではないかという意見もあります。アルコール依存症の方は、お酒の問題のみならず離婚、失職、経済的な問題など心理・社会的な要因も合わせて関与しているのではとの考えもあります。

アルコール依存症の方とアルコール依存症ではない方と比較したうつ病の発症率をみると、アメリカでの一般住民対象の調査結果は、アルコール依存症の方はうつ病のリスクが1.6倍から4倍くらい高くなっています。国内の調査では、専門治療施設入院中のアルコール依存症約800人のうち、生涯で強いうつ状態になった方は男性16%、女性30%、入院前に強い不安があった方は男性16%、女性31%、死にたいと考えた方は男性15%、女性26%、実際自殺を試みた方は男性8%、女性13%であり、いずれも女性の方が高くなっています。一般の方のうつ病の生涯有病率は男性で7%、女性で20%弱ですのでアルコール依存症の方が多いということが分かります。ですから、アルコール問題はうつ病を引き起こすらしいということがこういった調査結果からもいえます。一方、うつ病は飲酒問題を引き起こすのかということです。やはりこれも、うつ病はアルコール問題の原因になるという調査結果が多くあります。アメリカの調査では、うつ病に引き続いて飲酒問題が続発した人は約20%、他の調査でも約16%、躁うつ病は高くて40%〜50%であり、うつ病や躁うつ病はお酒の問題と非常に関係があることが分かります。

ストレスはうつ病の原因になりますが、飲酒にも影響をします。健康問題、経済問題は逆に飲酒量を減らしますが、男性では仕事のストレス、例えば裁量権が少ないとか仕事の負担が大きい、業務負担が大きいというような場合には、飲酒量が増える、あるいは慢性的な低レベルの仕事ストレスも飲酒量が増えるといわれています。

飲酒と睡眠の関係をみてみましょう。眠るために寝酒をされる方は多くいます。アルコールは寝付きを良くしますが、睡眠が浅くなり睡眠の質を悪くします。また、多量の飲酒はアルコールの利尿作用によりトイレに起きる回数が増え、睡眠のリズムを壊して睡眠の質を悪くします。うつ病にともなう睡眠障害の自己治療としての飲酒がきっかけで、気が付いてみるとお酒の量が増えて病的飲酒へ発展し、うつ病に加えてお酒の問題が出ることは決して珍しくありません。因みに、うつ病でお酒の問題が起こりやすい方は、若い方それから男性に多いという調査結果があります。また、うつ病で独身あるいは離婚された方もアルコール問題が起きやすいということが指摘をされています。

≪アルコール依存とうつ病が合併したら≫

アルコール依存症とうつ病は、相互に合併し易いといえます。では、合併したらどうなるのか。多量飲酒しているうつ病者は飲酒問題のないうつ病者に比べて、配偶者との仲がうまくいかない、離婚が多い、単身生活者が多い、病院への受診回数が多い、入院が長期化しやすいといったことが知られています。抗うつ薬の効果に関しては、少量の飲酒はあまり効果に影響がないようですが、多量飲酒は効果に悪影響を与えることが分かっています。また、追跡調査から、うつ病の入院治療の後、再入院するリスクファクターすなわち危険因子はアルコールであることも分かっています。またアルコールは自殺のリスクを高めます。

うつ病とアルコールの関係を整理しますと、うつ病はアルコール使用障害を引き起こす、逆にアルコールもうつ病を引き起こします。アルコールは自殺のリスクを高めるのでうつ病を合併しているとさらに自殺のリスクは高くなる。しかし、禁酒により、アルコールが原因のうつ病であればうつ病が良くなることがある、抗うつ薬の効果が上がる、精神安定剤への依存が防止できる、うつ病の原因が軽減される、自殺のリスクが下がります。

うつ病者の自殺のリスクファクターとして特に自殺に注意を要す人を対象とした調査で指摘されているのは、男性であること、精神疾患の家族歴があること、あるいは過去にそういう既往があること、うつ病の中でも重篤な精神病理があるとか絶望感が強いなどうつ病の関連項目に加えて、アルコールや薬の問題がある人では自殺のリスクがより高くなるとされています。したがって、うつ病の方の自殺防止という意味でも飲酒問題の適切な対処が必要とされます。自殺者の生前の病気として多いのはうつ病ですが、続いて多いのがアルコール依存・乱用、薬物依存など物質関連障害です。

≪アルコール使用障害の早期発見と対応≫

我々の久里浜医療センター病院を退院されたアルコール依存症の方の12年間追跡調査による死因の比較は、一番多いのは男女とも肝炎、肝硬変で、次いで男性では心疾患、自殺、事故の順、女性は事故、脳血管障害、自殺の順となっています。アルコール依存症の方がいかに自殺あるいは事故で亡くなっているかが明らかです。したがって、早期発見・早期介入が必要であり、依存症ではない多量飲酒のレベルの方であればスクリーニングとカウンセリングのような比較的短い期間の簡易介入で深刻化を防止できます。アルコール依存症まで深刻化してしまいますと専門治療や断酒会やAAのような自助グループが必要になります。早期発見のテストの一つにオーディット(AUDIT)があります(表2)。久里浜医療センターのホームページを開いていただくとこのテストが公開されています。AUDITの評価は、10点未満はさほど問題はないであろう、10点以上だと少しお酒に問題があると判定します。20点を超えると依存症の疑いがあり、専門家を受診しての治療が勧められます。講演会などでアルコール問題をお話しすると、”どうせいっても本人も止めようがないし、止める気もない”といわれてしまいます。今までわれわれ専門家の間でも、お酒を止めよう、あるいは減らそうという動機付けの部分は、なかなか手が付けられないというふうに考えられていました。例えば自助グループ、中でも断酒会では「底突き」という言葉をよく使います。要するに、本人が底を突かないとお酒は止められないということですが、一見これは良いようにみえますが、本当に底を突くと命を失う可能性があり非常に危険です。したがって、われわれは最近、変化のステージモデル(表3)や動機付け面接法といった手法で対応しようと考えています。人が行動を変えるには、こういった5段階が必要であるとの考え方です。止めたいという気持ちは人によって強さが違います。依存症の方たちもまったく問題がないと考えているわけではありません。特に病院に来られているような方は”飲んで死ねるなら本望”だといっていても、止めた方がいいのか、あるいは止められるのか迷っています。止める動機を強くするには、事の重要性をちゃんと認識してもらうとか、あるいは準備をしっかりしていく、それから変化への自信を持ってもらい止めることはできるということを理解してもらうことです。自助グループには実際にお酒を止めている人がいて、今はお酒に振り回されずにきちんと生きていることを実際に見せることがで、効果的に自信を持たせることができます。因みに、国内の専門治療施設では認知行動療法や内観療法などいろいろな治療法がありますが、残念ながら単独で有効といえる治療法はありませんでした。しかし、治療プログラムへの参加姿勢、達成意識、他の患者さんとの協力姿勢がとても大切だということが分かっています。動機を強めることが治療を成功に導くということです。

最後にお薬のことについて説明をします。従来、お酒を飲むと非常に不愉快な反応を起こす抗酒剤しか使えませんでしたが、平成25年の春から断酒のための薬「レグテクト」が発売されました。この薬はお酒を飲みたいという気持ちを少し軽くさせる作用があります。臨床試験では偽薬でも断酒する方は少しいますが、レグテクトでは10%から20%断酒率を向上させます。当然、服薬すれば効くという薬ではなく、お酒を止めたい、飲酒行動を変えたいと考えている、また治療前の飲酒の頻度が高い、毎日飲酒している、きちんと服薬する方に効果があることが分かっています。

これで私のお話を終わらせていただきます。ご静聴、ありがとうございました。


≪睡眠関連のお勧めWebsite≫

久里浜病院
http://www.kurihama-med.jp/
ヘルスネット
http://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/
公益社団法人アルコール健康医学協会
http://www.arukenkyo.or.jp/
 

 うつと睡眠の深か〜い関係  三島和夫

不眠症の方を診療しますと、以前うつ病だった、今うつ病だ、診ている間にうつ病になったなど、半数以上の方がどこかの時点でうつ病と関係しています。なぜ不眠とうつ病は関係が深いのか、そして不眠はうつ病の治療のうえでとても大事な症状であり、また不眠を早期に治すとうつ病も非常に良くなることが分かっており、治療についてもお話ししたいと思います。

世界で一番睡眠時間が短いのは日本人で、特に女性と子供で顕著です。私が初めて地方から上京したとき、夜の8時、9時に小中学生が塾から帰っているのを見て、こんな小さいときから夜遅くまで塾に行かなければならないのかと驚きました。寝食を惜しんで、4当5落など寝ないことが美徳のように言われるお国柄のためでしょうか。また、日本人は睡眠薬が嫌いです。世界10カ国の調査で、「眠れないときにはどうしますか」との質問に、他の国では約半分の方が「かかり付け医に相談します」と答えますが、日本人で同様に答える方は10%を切ります。カフェインを摂らないなど睡眠のために自分でできることも日本人はほとんどしません。では何をするのかといいますと圧倒的に寝酒です。教育水準が高いにもかかわらず、眠ることの重要性はあまり認識されていません。これは困ったことです。特にうつ病の治療にあたって睡眠は決して軽視できません。その理由をご説明します。

≪不眠の側からみたうつ病≫

日本人の成人で寝付きが悪い、早く目が覚める、途中でトイレに行く、何回も目が覚めて二度寝ができないなどの不眠症状のある方は、他の先進国と同様に成人の30%から40%です。年齢とともに増加し、中高年以上になると50%以上になります。4週間以上にわたり不眠があり、そのために眠気、だるさ、頭が回らない、また意欲低下、イライラ感など日中に心身の不調があるとき不眠症と診断されます。成人の10%、つまり100人に10人が不眠症であり、そのうちの4人は精神疾患を持っており、またそのうち2人がうつ病です。言いかえますと、不眠症状のある方の3人に1人が不眠症で、不眠症の5人に1人はうつ病ということです。したがって、不眠の方をすぐに不眠症と診断して睡眠薬を処方するのではなく、不眠の背景に心の病気があるのではないかと絶えず考えることがとても大事です。

うつ病には、不眠、食欲不振、頭重・頭痛、体重減少、口渇、月経異常、心悸亢進など身体の症状がでますが、不眠はほぼ必発で90%の方に出ます。そして、うつ病が治っても約65%方に不眠が残ってしまいます。残遺症状のなかで、不眠は最も多い症状です。

不眠は、うつ病にとり3つの大事なポイントがあります。一つは、うつ病の症状が出る前に不眠が出ることが多く、早期発見に役立ちます。二つ目は、不眠を改善することでうつ病の発症リスクが低く抑えられると考えられています。三つ目は、残遺症状として不眠があると再発率が高く、不眠の残遺症状の有無はうつ病治療のうえで大事な指標になることです。

≪うつ病の治療経過から睡眠問題をみる≫

では、不眠対策はどうすればいいのか。うつ病の経過を示す有名な図(図1)に沿って説明します。うつ病の治療経過には、発症、治療、寛解、回復と4つのポイントがあります。この経過のなかで睡眠問題がかかわってきます。すなわち、先行症状・発症リスクとしての不眠、治療標的としての不眠、厄介な残遺症状としての不眠、治りにくい不眠の対策の4つです。

‐先行症状・発症リスクとしての不眠‐

不眠がうつ病症状の前に出てくる方は、初発うつ病の約40%、再発の約60%です。同時にうつ病症状と不眠が出る方は初発で約30%、再発で約22%、不眠が後から出てくる方は初発で約29%、再発で約22%です。不眠が先行して本格的なうつ病症状が出るまでの期間は5週間から数カ月と人によって異なります。不眠など自分の体調の変化に気付いてからかかりつけ医へ行く、うつ病の自己チェックを行うなどの期間は十分にあります。

不眠症のうつ病発症リスクは2倍以上、高齢者では、最近の死別体験の3.3倍についで睡眠障害は2.6倍と発症リスクは一層高くなっています。長引く不眠がある場合は、うつ病の予防、また早期発見の意味からも放置しないことが大事です。

‐うつ病の治療経過中の睡眠問題‐

昔、うつ病にともう不眠はうつ病が治れば不眠も治るといわれていましたが、間違いです。うつ病の不眠は早期に対処しないと治りにくくなり、うつ病治療と同時に不眠の治療をすることが大事です。アメリカの治療ガイドラインに3つのことが書かれています。一つは、うつ病の不眠は残遺しやすく、また重傷であり、個別の治療が必要であることです。夜中に眠れない、うつらうつらして何回も目が覚める、早朝覚醒をしてこれから一日が始まるのかと苦しい思いをします。ただでさえ辛いうつ状態の時に、毎晩毎晩不眠で長く苦しい夜を過ごすのは大きなトラウマになります。朝、目覚めると悲観的になり自殺を図ることもあり、自殺防止の観点からも早めの対処が望まれます。二つ目に、残遺症状としての不眠を防止することです。うつ病が寛解に向かっても残遺不眠が長期間続くことでなかなか睡眠薬が手放せなくなります。三つ目は、不眠を治すとうつ病が早く改善することです。不眠の真の改善には、ストレスホルモン(コルチゾール、ACTH)を抑えて、交感神経系の過活動を和らげ、深い睡眠を取ることが大事です。このストレスホルモン、自律神経系の過活動はうつ病を長引かせる原因の一つでもあります。

抗うつ薬の効果は十分とはいえず、寛解する方は1/3、少し症状が残る部分寛解の方が1/3、効果不十分の方が1/3です。寛解に至った方でも症状が全くなくなる方は10〜20%にすぎず、多くの方に残遺症状が認められます。先ほどもいいましたが、不眠は65%にみられ、仕事や趣味に興味がわかない、一般身体症状、精神の不安、抑うつ気分などがそれぞれ40%前後で残ります。不眠治療には睡眠薬が多用されますが、睡眠薬の服薬量は徐々に増加してしまいます。その理由は、不眠はかなり重い症状であること、また再発を繰り返す度に治りづらくなるために増量する、また睡眠薬は適切な時期に減薬すべきですが、それがなされていないことなどです。

≪治りにくい不眠の対策≫

この図(図2)を使用してご説明したいと思います。心配事などによる数日から2〜3週間の不眠は誰にもあり、これを「こころの不眠」といいますが自然に治ります。しかし、不眠が長引くと不眠が治りにくい脳内、体内の変化が生じ、慢性不眠が始まります。これを「からだの不眠」といいます。うつ病では一般的に不眠の期間が長く、生活上で大きな心配事など強いストレスがあり、また気分の切り替えがうまくできない性格が多いため、「からだの不眠」に陥ることが少なくありません。本来、私たちの体には眠るための機能が備わっていますが、その機能が変化してしまうことで眠れなくなります。深い睡眠で脳をクールダウンさせることが必要です。

‐不眠の認知駆動療法‐

不眠症の認知行動療法は、うつ病の認知行動療法と同様に有効な治療法です。また、不眠の認知行動療法はうつ病そのものにも有効であることも分かっています。慢性不眠の方が陥りやすい睡眠習慣に関する4つの誤りがあり、不眠の認知行動療法ではひとり一人に次の4つの問題点を確認しながら進めます。一つは、「ベッドへのしがみつき」です。不眠症で、特にうつ病が合併していると体を動かすにも疲れ、夜が怖く、早く寝て、早く明日になってほしい気持ちになり、早い時間帯から布団に入ります。長くベッドに横になっていると長く眠れているかのように思いますが、それは間違いです。不眠は、布団に入っても眠れないから不眠です。“とにかく、静かに布団の中に横になり、眠りがやってくるまでじっと目を閉じて、おとなしくしなさい、横になっているだけでも体は休まる”といわれていましたが、これは現在、不眠症の認知行動療法ではいってはいけないことの第一番目に上げられています。つまり、「寝室で」眠れなくてもんもんとしている時間が長ければ長いほど不眠症は悪くなるからです。これでは寝室が恐い場所になってしまい、寝ようとするだけで緊張し目が醒めてしまいます。むしろ、体が疲れているのであれば、リビングのソファーなどで少し横になり、眠くなってから布団に入ることです。二つ目は、「眠れそうもない時間帯に寝ようとする」ことです。例えば、12時ごろに寝ていたサラリーマンが、うつ病で体調が悪くなってからは9時くらいにはもう布団をかぶって横になります。では、9時にその方は眠れるのかといったらやはり眠れません。「体内時計」がこの時間帯にはまだ眠れる状態に調節していないからです。疲れて9時ごろに寝入ったとしても、2〜3時間くらいで目覚めてしまいます。早い時間帯に睡眠薬を飲んで寝てもうまく寝つけず、睡眠薬が切れたころになんとなく寝てしまう方は、睡眠薬を飲む時間、寝床に入る時間が早過ぎるからです。早く寝ることにこだわってはいけません。三つ目は、「不眠を悪化させる儀式」です。レモンを見るとヨダレがでるように、不眠症の方はベッドを見ると眠れなくなる条件付けがされていることがあります。毎日ベッドに行って、一日の出来事を思い出す、明日のことを考える、そして苦しくて眠れない。眠れないと、本を読んだりテレビをつけたり、スマートフォンの操作などをする。このような目が覚める行動を続けていると、ベッドに向かっただけで目が覚めるように徐々に条件付けされていきます。寝室を、眠れない、苦しい場所にしないためには、眠くないときにはベッドに行かず、眠くなるまで待ってちょっと遅めぐらいにベッドに行く、寝床であれこれしない。そして、朝も時刻を決めて少々早起きして、ベッドにいる時間を短縮することです。つまり「ちょい遅寝、ちょい早起き」をしてベッドに居る時間を短くすることです。眠れなければ寝室から出て眠くなるまでリビングで待つ、寝室では目が覚める行動はしないようにします。四つ目は、「長すぎる昼寝」です。昼寝はできるだけ避けるべきですが、昼寝をするのであれば目覚ましをかけてでも20分以内にすることです。30分を越える昼寝をして深い眠りをとってしまうと、夜中の眠気を大きく減らしてしまいます。頭のもやもや感は20分くらいで十分取れます。むしろ1時間も寝てしまうと深い眠りのために起きたときにモヤッとします。うつ病治療には、質の良い睡眠を夜中にコンパクトに確保することが大事です。

‐睡眠薬の減量‐

こういった「4つの誤り」を正していきますと不眠は解消し、うつ病も回復に向かい睡眠薬を減らすことができます。例えば2錠以上飲んでいる方は、半錠ずつ、慎重な方は4分の1錠ずつ段階的に減量していきます。この時、二つのことに留意してください。一つは、1段階を2週間をかけてゆっくりと減量することです。二つ目は、減量した最初の数日は眠りの質が悪く感じることです。これは睡眠薬が減った影響もありますが、減量したという緊張感も大いに関係しています。身構えないことが大事です。数日すれば山を越えることができます。しかし、睡眠薬をやめた後に治療前の不眠状態に戻ってしまうようあれば不眠症は治っていないことであり、再度服薬が必要です。しっかり治してから再度減薬にチャレンジしましょう。最後に半錠になったとき止められるかどうかは、心配性であるかなどその人のパーソナリティーによります。全く飲まないのはとても心配だという方は、ひとまず眠れないときだけ頓服することをお薦めします。本当に心身ともに落ち着いてくれば、飲み忘れが増えて、止められる方が多くいます。中には少量でも睡眠薬を続ける必要がある方もいます。例えば、不眠が強い方、年齢のために睡眠の質が低下している方、高血圧や心臓病、てんかんなど不眠が大敵の方などです。そのような方は、飲むことのデメリットと飲んで寝ることのメリットを比較し、長期服用の是非を主治医と相談してください。


まとめです。うつ病の方は、多くの苦しい症状と闘わなくてはいけませんが、中でも不眠は大敵です。うつ病が治れば不眠も治るという考え方は間違いです。不眠はうつ病の最も残りやすい症状であり、再発の危険性を高めます。また、不眠で苦しむ期間が長ければ長いほど治りにくい「からだの不眠」になりますから、4週間続く不眠は早期の対処が必要です。特にうつ病の場合には、寝る時間をきちんと確保することが大事です。うつ病の不眠は手強く、睡眠薬も非常に多めになりがちですが、睡眠習慣を正すことで減薬できます。生活習慣を正す不眠の認知行動療法は、不眠のみならずうつ病の改善にも有効です。不眠の治りにくいうつ病患者は自殺企図が多く、注意が必要です。

限られた時間で十分な説目ができなかった点が多々ありますが、お役にたてれば幸いです。ご静聴、ありがとうございました。


≪睡眠関連のお勧めWebsite≫

睡眠医療プラットフォーム
http://sleepmed.jp/platform/
e-ヘルスネット
http://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/

 Q&A

樋口:
たくさんご質問を頂いておりまして、とてもすべてにお答えができる状況にはございませんが可能なかぎり質問にお答えをしたく思います。
最初は野村先生への質問です。「現代型うつ病と発達障害の関係が最近話題になっています。発達障害でみられるうつ病の状態と現代型うつ病とはどのように違うのか、あるいは関連しているのか」という質問です。
野村:
私は発達障害の専門家ではなく不完全なお答えになるかもしれないことをお断りしておきます。最近、現代型うつ病は、実はかなりの部分が発達障害ではないかとの意見が出ていることは確かです。その場にそぐわない、その雰囲気が分からないような態度とか言動がある。あるいはこだわり症で一つのことにこだわってなかなか行動の変化ができず、そのためにうまくいかない。うまくいかないから周りから叱られたり、非難されたりのストレスを受け、うつ状態になるのが現代型うつ病であるということでしょう。しかし、私の知るかぎりでは、まだそういう結論を出すほど明確なデータがあるわけではないと思います。最近、成人の発達障害を専門にしている先生の論文を読みました。成人で発達障害の疑いがある方を丁寧に診断しますと、うつ病であることは確かですが、同時に発達障害であると診断が付いたケースは、ちょっと不正確かもしれませんけど10%以下であったと記憶しています。現代型を見たらこれは発達障害だ、アスペルガーだとはいえず、さらに慎重な検討が必要と思います。
樋口:
はい、ありがとうございました。発達障害に関しては、最近メディアもさまざまに取り上げていますが、今まであまりにも話題にならなかっただけに話題性がより高くなっているようです。発達障害の診断には、小さいときにどんなお子さんで、どういう発達をしたのか、特に周りの子どもさんとの関係や、学校での行動などをきちんと把握せず、大人になってからの状態だけをみてなにか落ち着きがないから発達障害だと安易に診断をすることになってはいけないと思います。このことは、非常に慎重に診断すべきであるとしばしば私たちも議論をするところです。なかなか難しい問題ですが、野村先生のお答えを参考にしていただければと思います。
次は松下先生へのご質問です。「アルコールはうつ病の経過に影響するか」ということですが先ほどお話の中で触れられました。少量の飲酒は問題ないとのことでしたが、例えば、一日の飲酒量が缶ビール1〜2本であっても、毎日それを飲むという場合には非常に影響するのでしょうか。すなわち、量の問題とそれを連続飲酒したときの関係だと思いますがいかがでしょうか。
松下:
アルコールについてもいろいろ質問を頂戴いていますが、まず少量とか適量というのはどのくらいなのかというご質問が多かったので、それについてお話をしたいと思います。適量はどのくらいまでなら良いのかというのは、国によってそれぞれ基準が違います。日本の場合、だいたい純アルコールで20グラムというのが厚労省の見解です。20グラムとは、普通のアルコール飲料でいいますとビールで500ccに含まれる量です。日本酒ですと1合弱ぐらい、ワインですと200ccぐらい、焼酎ですと100ccです。大量、多量とは、世界的な基準としてよく使われるのは60グラムです。ビールですと1,500cc以上、日本酒ですと3合以上です。アメリカでは別の基準もあって、ビール350ccを男性だと一週間で14本、女性だと7本を超えたら多量といいます。あるいは一日に、男性の場合だとビール350ccを4本、女性だと3本以上だと多量だと定義がされます。
樋口:
ありがとうございました。それでは三島先生への質問は三島先生にご選択いただければと思います。
三島:
いくつか重複して頂きました。「睡眠薬は飲んだらぼけるのではないか」というご心配についてですが、これは良く受ける質問です。睡眠薬を何年も飲み続けたときにどうなるのかを調べた大きな調査というのは、今まで世界で9つくらいあります。そのうちの3つは問題なし、6つはやはり認知症のリスクを上げるのではないかという結果になっています。問題はどのくらいの期間、どれだけ睡眠薬を服薬すれば認知症のリスクが高まるのかということです。最近発表された調査結果を簡単にまとめると、ベンゾジアゼピン系薬物(睡眠薬もその一種)を10年くらい服薬し続けた100人のうち6人が認知症になったのに対して、服薬していなかった100人では同じ期間に4人が認知症になりました。6対4だから1.5倍リスクが高まるということになりますが、これを高いとみるか低いとみるかはいろんな考え方があると思います。では睡眠薬を服用せずに不眠を放置して良いのかという問題もあります。不眠は生活習慣病を悪化させ、生活習慣病は認知症と関連しており簡単に結論を出せません。やはり眠れないときは睡眠薬を服薬し、治ったら減薬することが、現在の基本的な考え方かと思います。
樋口:
野村先生へ質問です。質問者は8年以上うつ病で苦しんでいられ方です。「薬を飲んでいるのにうつ病を繰り返し、働けない状態が続くのはとてもつらいです。人生に希望が持てません。うつ病を長年患っている方は多くいると思います。こうした方に向けて、お薬あるいは他の有効な治療の最新情報を教えてください」ということです。
野村:
先ず、うつ病と双極性障害に対する薬物治療は分けて考えるべきと思います。うつ病は抗うつ薬によって3分の1が良くなり、3分の1がまあまあ中間的な状態、3分の1は全く効果がない状態にあり、有効率が高いとは決していえない現状があり、特に難治性のうつ病には特殊な治療法が必要だと思います。例えば、麻酔をしたうえで電気をかける通電療法は非常に有効です。自分自身でその効果を目の当たりにしていますので自分の部下に、もし私がうつ病になったら真っ先にこの通電療法をやって欲しいといっています。それでも60%〜70%の有効率なんですが、難しい症例を対処にしていますからこれは相当高い有効率と思います。甲状腺ホルモン、女性ホルモンを使用することもあります。女性の更年期うつ病で抗うつ薬単独では効果がない方でも、女性ホルモンの併用で有効なこともありますがもちろん100%ということではありません。その他は、特殊な薬剤や改良した特殊な認知療法を行うこともあります。双極性障害の治療はうつ病よりも難しく、双極性障害には、抗うつ薬はほとんど効果がないとの研究報告もあり、気分安定薬など有効な治療法を模索している段階にあると思います。
樋口:
ありがとうございました。追加して申し上げると、。まだ日本で医療機器としての使用は認可されていませんが他に、磁気刺激療法があり、抗うつ薬で効果がなかった慢性のあるいは難治性のうつ病にかなり効果があるとの報告がされて、既に米国、ヨーロッパでは医療機器として使われています。おそらく早晩、日本でも使用されるようになると思います。この磁気刺激療法の有利な点は、通電療法が麻酔を必要であることに対して、磁気刺激療法は麻酔が不要で、外来で使用できることです。しかし、通電療法が早期に改善が得られるのに対して磁気刺激療法は、かなりの回数を実施しないと効果が現れません。
松下先生に質問です。「うつ病とアルコール依存が合併している場合、どちらがそもそもの原因なのか、それを確かめる方法などはありますでしょうか」という質問です。
松下:
うつ病とアルコール依存のどちらが時間的に先行しているかということです。うつ病が先行していればうつ病が、アルコールの問題のある方にうつ病が出てくればアルコールが原因ではないかと考えられます。治療は、うつ病が先行していればうつ病の治療が基本となります。ただし、飲酒しながらうつ病治療をしてもうまく行きませんから、飲酒を止めたうえでの治療が必要です。飲酒問題が先行していれば、飲酒を止めてアルコール依存症の治療を優先します。それだけでうつ病が治ることもありますし、不十分であれば抗うつ薬でうつ病治療を追加します。双極性障害(躁うつ病)の場合はこれとは異なります。通常、アルコールが原因で双極性障害を起こすことは考えづらいと思います。躁うつ病でアルコール依存の方もいますが、気分が安定しないとお酒のコントロールもうまく行きません。気分がハイになって飲む人もいれば、逆に気分が落ちこむと気分を持ち上げるために飲む方もいます。また、飲酒しますと気分もちょっと複雑になりますし、躁状態で飲酒しますとさらにその病態が複雑になり、いろんな問題を引き起こします。いずれにしましても、飲酒しないことが一番だろうと思います。
樋口:
はい、ありがとうございます。今、先生のお話を伺って、アルコールだけでなく、例えば糖尿病を合併している躁うつ病の方もたくさんいますが、コントロールが難しい。といいいますのは、躁状態のときは食事制限など身体をコントローすることなんかどうでもいいといった考えになります。うつ状態のときは、ご自分の身体のことをかなり心配して真面目に服薬し、食事制限もします。生活習慣病とアルコール依存が合併した方のコントロールが難しいように、双極性障害も同様に難しいところがあると思います。
それでは三島先生、またお願いします。
三島:
いくつか「認知行動療法の具体的な方法について」の質問を受けていますのでお答えいたします。一般的な方法は、外来で、1回、約1時間のカウンセリング、ガイダンスなどを行います。通常は2週間に1回、遠方の方ですと4週間に1回のペースで、合計6回前後のカウンセリングを行います。それほど長期間かかるものではありません。終了後も効果は持続します。残念ながら認知行動療法は、うつ病に対してのみ保険適用されており、不眠症に対する認知行動療法は適応されません。したがいまして、私たちの病院では、普通の外来診察料をいただいています。一部は自費診療として実施している都内の病院もあります。いろんな利便性を考えて選択されたらいいかと思います。
「集団認知行動療法はできるのかという」質問があります。私たちは、個人型のみ行っていますが、集団でも可能であり慈恵医科大学などで専門に行っています。
樋口:
時間もなくなってきましたので、各先生にあと一問お願いします。
野村先生に極めて基本的な質問ですが、「うつ病の症状ではないかと思ったら、どのようなタイミングで精神科を受診する必要があるのか、あるいは家族であれば勧めたらいいのか」、また「お薬に抵抗がある場合には、どんな対応ができるのか」の2つにお答えください。
野村:
講演でお話ししましたように、ある程度の時間、ある程度のうつ状態になることは人間にはありますが、そうなったらすぐ病気であるとはいえないと思います。むしろ憂うつになることは必要だ、人間が成長するうえにも非常に大事だと私は思っています。ただ、病気であれば受診すべきであり、その判断基準には3つのポイントがあると思います。一つは、苦しみの程度です。日常生活がものすごく苦しくなり、その苦しさ故になにもできなくなる。二つ目は、持続時間です。長く続いているのかです。三つ目は、これはご本人ではなく周りから見てということになると思いますが、ゆがみの強さです。普通の心理ではちょっと考えにくいことを考えているようであれば、周りからも受診を勧めた方がいいと思います。
薬に対して抵抗があるという方は、最近非常に多いです。私の外来の例をいえば7割の方には薬をまったく使っていません。しかし、うつ病になれば8割ぐらいの方に薬を使いますが、これは医療的な治療が必要であろうと思われるからです。薬に抵抗がある方に対しては、なぜ嫌いなのかその理由を明確にすることだと思います。例えば、お隣の奥さんが薬は怖いなどという理由であれば、うつ病の家族に全然効かなかったからなのか、副作用が出たからなのかなどその理由を確認し、問題点を個々に検討してその対策をとる必要があると思います。
樋口:
次はアルコール関連です。今日もお話の中にありましたけれども、「うつ病の方が陥りやすい否定的な考え方と、アルコール依存の方々が持っている自分や周りに対する考え方、あるいは病気に対する考え方との間には関連性があるのか」、ちょっと難しい質問です。
松下:
アルコール依存の方で、うつ病になるパターンで多いのはやはり飲んだ後です。強烈な禁断症状のときに、ものすごく強いうつ状態を経験されます。ただそれは、禁断症状がだんだん治まっていけば、時間的に別にその治療をしなくても治まってはいきます。アルコール依存の方に多い心理傾向としては自己評価が低いことです。自信がないといいますか、自分に対する評価、自分の価値をすごく低く見ている方が一般的には多いとわれわれは考えています。ですから、ある意味で少しうつ病と共通した心理の部分もあるかもしれません。考え方が否定的になってしまい、なかなか素直に話せなかったり、人を信じられなかったり、そのような心理傾向が出てきます。逆に、うつ病の方の飲酒について一般的にいわれているのは、自己治療ということです。うつ気分を晴らすために少し飲むくらいだとちょっと楽しくなるといいますか、気持ちが少し和らぎます。特に緊張を和らげる効果がアルコールにはありますので、自己治療としてお酒を飲む方はいらっしゃるかと思います。ただ、今日お話ししましたように、アルコールの問題はコントロールがなかなか難しいことです。アルコールは、ちょっとの量だと少し気持ちを上げてくれますが、さらに飲んでアルコールの血中濃度を上げていくと、気持ちは下がっていきます。もっと飲めばそれこそ脳が麻痺して最終的には呼吸が止まるというような状況になりますので、非常にコントロールが難しいです。あまり答えになっていないと思います。
樋口:
ありがとうございます。三島先生、最後にお願いします。
三島:
「眠れないんだけれども、どうも不眠症じゃないんじゃないか」というようなご質問をいくつかいただきました。お一人の方は、「全然眠れず、しかも一緒に脚がジンジンして、苦しい」とのご相談です。これはおそらく不眠症ではなくて、レストレスレッグス症候群と呼ばれる、別のタイプの睡眠障害です。睡眠薬は症状を悪くするだけで、別の特効薬がありますのでかかり付け医の先生にご相談されたらよろしいと思います。
その他に、「昼夜逆転から抜け出せない」というご相談です。これも概日リズム睡眠障害と呼ばれる別の睡眠障害で、やはり睡眠薬は効きません。早起きして午前中の光を十分に浴びることで、体内時計が朝型に戻ることが分かっています。逆に夜の光は夜型を強めます。昼夜逆転では夜中に長時間、室内光を浴びるために夜型が強まる悪循環に陥ります。私は、夜中でもサングラスを掛けることを勧めますがとても治療効果があります。もしくは、照度を落とす、もしくは青がほとんど入っていない橙色など暖色系の照明にするのも効果的です。蛍光灯の光は、白く見えますが体内時計に大きく影響する青の光が結構入っており、夜に5時間くらい浴びていますと夜型が進みます。コンビニの照明は非常に明るく、やはり夜に長時間浴びるのは要注意です。
抗うつ薬の一部にはレストレスレッグス性症候群や寝入りばなに脚がぴくぴくして目が覚める周期性四肢運動障害などの薬剤性睡眠障害を引き起こすことがあります。また、睡眠時無呼吸症候群といって睡眠中にたびたび呼吸が止まって十分な睡眠がとれず昼間に眠気が残るなどの睡眠障害も多いので、肥満気味でいびきが大きく、日中に眠気のある方は疑ってみましょう。こように夜中に眠れないイコール不眠症と決めつけることなく、別の原因も考慮して医師に相談されたらよろしいかと思います。
樋口:
ありがとうございました。今日お越しの方々はとても熱心な方が多く、多岐に渡る多くの質問をいただきました。時間の都合ですべてにお答えできないのが残念です。
3人の講師に分かりやすいお話をしていただきました。うつ病は簡単に治るというメッセージが、ずいぶん報道された時期がありました。日々、われわれは診療の場でいろんな方の診察をさせていただいて、うつ病はいわれているほど簡単に治らないという思いもします。原因がまだ分かっていないこともあって、本当の原因的な治療を行うまでにはまだまだ距離があると思います。しかし、今日のお話がいろんなヒントを与えてくれたように思います。長くかかられていても諦めずに、必ず光は見えてくると信じていただいて、ぜひ治療を続けていただきたいと思います。
治療にどういう方法があるのかを教えられないままに、ただ薬だけ飲みなさいといわれるのはフェアではないと思います。私たちも普段、治療を薬一辺倒でやっているわけではありません。私たちは、情報をできるだけきめ細かに提供して、最終的には患者さんご自身に治療法を選んでいただく、すなわち自己決定していただくことを日々心がけています。
最後まで熱心にご聴講いただきありがとうございました。