「うつ」を克服した人達
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体験談
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体験談
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体験談
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体験談
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俳優、竹脇無我
1944年、千葉県生まれ。青山学院大学・法学部卒業。
60年、16才で松竹映画「しかも彼等は行く」でデビュー。
数年間学業に専念した後、映画界に復帰。「人生劇場」
ほか数々の作品に主演。70年には映画とテレビで「姿三四郎」
を演じ大人気に。その後は「だいこんの花」(テレビ朝日系)、
「おやじのヒゲ」「大岡越前」(TBS系)などテレビや舞台で活躍。
平成14年11月1日からは舞台「妻たちの鹿鳴館」(明治座)に出演。
竹脇無我さん写真
撮影/西山 奈々子

うつ病は、時間はかかっても“ちゃんと治る病気”なんだよゆっくり休んで、ちゃんと治療を受ければね。
  竹脇無我さん写真 甘いマスクと知的でやさしい眼差し…。そんなルックスからかお金持ちの医者やエリート弁護士という役が多かったという竹脇さん。「別にいやではなかったけど、そういうイメージばかりだと困るって当時のプロデューサーには言ってたんだ。でも、あえてそういう役ばっかりやらされた(笑)。それに若いころの写真を見ると不思議とそういう役が似合ってて、画面に映るとそういうイメージに見える。でも、本当の僕は違ってたんだけどね。」

 二枚目というイメージに対し、潜在的にはいつもプレッシャーを感じていたという竹脇さんが、うつの症状に気づき始めたのは今から10年ほど前。仕事的にもひと段落ついた48〜9歳のころだった。
当時のことを思い出しながら、竹脇さんはゆっくりとあたたかな口調で語って
くれた。

セリフ覚えもままならず、舞台に立ってもろくに演技もできない自分との葛藤の日々
 「精神科の先生にはうつ病は遺伝ではないと言われたけど、やっぱり父親がうつだったことは気にはなっていた。僕には兄と弟がいて、兄は全くうつとは関係ない感じで、弟はちょっとうつ気があって。同じ血を分けた兄弟でもいろいろ違うから一概には言えないよね。」

 竹脇さんの場合は、うつだけではなく、躁の症状もあったようだ。
「まあ、軽い躁状態でもないとこういう仕事はできないよね。躁状態というと楽しくてよさそうに見えるけど、本人にとってはうつと同じくらい辛いんだ。体や心がどんなに疲れていても、なんだか楽しくて仕方ないわけだから。そして躁の状態が高い分だけその後にやってくるうつが普通の人よりもひどい。それに比べると躁を伴わない、うつだけの人は治りやすい。極端な話、うつはゆっくり休んで、くすりをのんでいればきっと治るんだから、心配いらないよ。まぁー、心配しなくてもいいといっても、うつの人は常に何かを心配してるものだからね(笑)。」

竹脇無我さん写真 竹脇さんの初期の症状は、何をするのもおっくうで、電話の受話器を持つのも重く感じられたほど体中がだるかったとか。「最初は肝臓の病気かなと思ってた。そのうち仕事をしたくなくなって…。画面に映るのが商売なのに、鏡で自分の顔を見ると映るような顔をしていない。体力的にも仕事は無理だなって思ったしね。だるくってコップを持ち上げるのもつらいんだから。うつの人ってみんなそうだと思うけど、とにかくカーテン閉め切って、電話も全部切ってしまいたいって感じになってしまったんだ。」

 そのころの竹脇さんは、台詞覚えもままならず、撮影の現場に行くことすら拒否してしまう状態だった。「セリフを覚えようにも、一行の台詞も素直に頭に入ってこない。だから仕事に行く気がしない。無理して仕事に行っても役者が演技ができないわけだから行った方が現場の人たちに迷惑をかけてしまうことになる。そう考えると行かない方がいいかなと内心では思ってたよ。」それでも、そんなに簡単に「はい、やめます!」というわけにはいかず、かなりの量の仕事をこなす日々が続いたという。「あんまりだるいから、毎日酒を飲んでましたね。でもこれははっきり言って逆効果だったと今は思う。舞台に出ても何も覚えていない。セリフも何も。だから舞台の上で自然に出てくるセリフしか言わない。そのときは、僕を使うほうも悪いんだよ、なんて思って自分を納得させてたね。」

 当時のことを振り返りながら、穏やかな笑顔で話す今の竹脇さんからは、その頃の苦しさは想像もつかないが、自殺まで考えることもしばしばあったそうだ。「冬の寒空の下、思い立ったようにマンションの屋上にビールを持ってあがるんだ。屋上に出るとまず、あぁ寒いなって思うんだよね。そして、ここから飛び降りたら楽になれるかな、なんて思うんだ。でも、その後にもし飛び降りるなら絹のパジャマに着替えようかなって考える。木綿とかだと格好悪いんじゃないかってね。で、下を見ると、すごーく小さく自動車の屋根が見えるんだけど、あの自動車がじゃまだなってまた思う。こんなことをやっているうちは、絶対死なないよね(笑)。」

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