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私の診療日記
昭和大学医学部精神医学教室助教授 中込和幸
中込和幸助教授

第2回−「パニック障害の患者さん」

 うつ病やパニック障害には、“特別な病気”というイメージが強く、このような病気に悩んでいる多くの人が、誰にも相談できずにいます。
しかし、ストレスの多い現代社会ではうつ病やパニック障害は誰でもかかりうる、ごく一般的な病気です。

 このコーナーでは、精神科の先生である中込先生の診療日記を通じて、先生の日常的な診療風景をのぞいてみましょう。

 先生が、普段どんなうつ病やパニック障害の患者さんを診ているのか、またその患者さんたちにどのような治療をして、そして病気から回復しているのか、などを皆さんにもみていただきたいです。

 そして、皆さんにもっと精神科を身近に感じてもらい、1人でも多くのうつ病やパニック障害で悩んでいる人の治療を受けるきっかけになって欲しいと思っています。

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  ●Bさん(36歳、OL)が初めて私の診察室を訪れたのは約3カ月前のことであった。

 不安げな表情を見せていたが、話しぶりはしっかりしていた。厳格な両親のもとに育ち、幼少時より自分の感情を抑制する性格であったという。また、これまでにも仕事や人間関係のストレスが加わると頭痛、吐き気、下痢などが年に1、2回出現することがあったが、長く続くことはなかった。本人の話をまとめると以下の通りである。

 イラスト受診の約1カ月前、仕事からの帰りに電車を待っていた際に、突然頭痛、不安、動悸、めまいが生じ、「意識を失うのではないか」と感じるほどの恐怖に襲われ、駅員室で10〜20分休ませてもらった。その後落ち着いたためタクシーで帰宅し、風邪薬を飲んで就寝したが、翌日はふだんどおり出勤した。しかし、その後も夫と外食中、あるいはスーパーに買い物に出かけた際などに同様の発作に襲われ、子宮筋腫のために通院していた産婦人科にて安定剤を処方された。飲めば落ち着く気もするが、発作は十分抑制されていない気がしていた。最初の発作から1週間がたち、仕事は休職扱いにした。某大学病院で循環器内科、耳鼻科を受診したが、とくに器質的な異常はないといわれた。さらに受診1週間前には産婦人科から三環系抗うつ薬を処方されたが、薬局でもらった説明文書に記載された作用・副作用について読んで恐くなり、服用はとりやめた。今回の発作が生じる前には、ストレスになるような出来事も思いつかなかったため、精神科受診は考えていなかったが、知人からのすすめで本日受診したという。

 私は診断が「パニック障害」であること、適切な薬物の使用によって「パニック発作」が予防できることを説明し、SSRIとベンゾジアゼピン系抗不安薬の服用を勧めた。SSRIの副作用として一過性に吐き気が生じる可能性があることを説明したところ、不安げな表情はみせたものの一応説明には納得した様子であった。しかし、SSRIは少量から開始したにも関わらず、帰宅後SSRI服用直後に吐き気、頭重感を自覚したため、服用を中止した。抗不安薬のみの治療を継続したが、胸がしめつけられるような感覚や頭痛が断続的に生じ、再び発作に襲われるのではないかとの不安にさいなまれ、結局仕事は退職することになった。そこで、本人と相談の上再び少量のSSRIを開始することにした。今回はとくに副作用もなく順調に経過し、慎重に増量した結果、4週間後には本人が苦手としていた電車に乗る、買い物に出かける、知人との会食などもこなせるようになり、若干の予期不安はあるもののそれを軽減しつつある。

 最初にSSRI服用直後にみられた吐き気や頭重感が本人の薬物に対する恐怖心に起因することが推測されるが、最初にもっと時間をかけて不安を取り除く努力が必要であったと痛感したケースである。

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