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ドクターコラム「精神科医の本音」
昭和大学医学部精神医学教室教授上島国利
上島国利教授

第2回−「見守る側の、やさしさの距離感」

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  ●周囲の方は、こんな症状に気をつけてください

 うつ病の場合は最初に不眠、頭痛、肩こりといった身体的な症状がでやすいという特徴があるため、どうしても先にからだの病気を疑ってしまい、発見が遅れることもよくあります。しかし、うつ病ではこのようなからだの症状に並行して、憂うつ感、興味関心の低下、意欲の減退といった気分的な症状も現れます。イラスト1このとき、患者さん自身はからだの症状が気になるため、気分的な変化はあまり気にしません。しかし、周りから見ていると患者さんのうつ状態には気がつくため、家族や友人といった周囲の人のサポートが必要といわれています。このような変化に気がついた場合は、うつ病を疑って、積極的に病院の受診を勧めてほしいと思います。


●病院へは、家族も一緒に

 私は基本的に、病院へはご家族の方も一緒に行ってほしいと思います。その理由は、2つあります。

 1つは、うつ病という病気のことや、処方するくすりのこと、また治療にはどのくらいの期間が必要かということを患者さんに説明するのですが、これらのことをご家族の方にも一緒に聞いていてほしいためです。そして、現在の患者さんの状態やうつ病がどのような病気であるかということをきちんと理解してほしいのです。

 もう1つは、患者さんの代わりに今の状態を医師に伝えてほしいためです。うつ病のときは判断力が鈍っており、患者さんは現在自分がどのような状態かをはっきり説明できません。ご家族の方が診察につき添って、患者さんの日常生活の様子を伝えていただけると診断がスムーズになります。具体的には、いつごろから様子がおかしくなり始め、どのような症状が現れるようになったか、などです。患者さん自身がこのようなことを思いだすことは大きな負担になるため、できればご家族の方にサポートしていただきたいと思います。


●精神科医をアドバイザーに使って

 よくご家族や周囲の方から「どんな風に患者さんに接していいか分からない」といわれます。しかし、これは患者さんと一緒に病院へ行くことで簡単に解決できると思います。つまり、担当の医師を上手にアドバイザーとして使い、患者さんの状態や、接し方などの説明をきちんと受けることです。

 例えば、私なら奥さんがうつ病というご主人には、「忙しくても今は大変なときだから買い物くらいは代わってあげてください」とか、「うつ病のときは、夜の献立を考えるのが一番つらいため、できればスーパーのお惣菜などにして、「考える」という奥さんの負担をなるべく減らしてあげてください」とアドバイスします。

 また、「主人がうつ病で元気がないから、今度の休みに温泉旅行を計画した」という方には、「患者さんにとっては旅行に行っても楽しめないし、かえって辛いだけなので本人の意向をよく確かめてからにしてください」とアドバイスします。イラスト2

 これらのことは、何十年とうつ病の患者さんを診てきた精神科医にとっては些細なことですが、これまでうつ病とかかわりのなかった普通の人ではなかなか理解できにくいことです。うつ病の患者さんに早く病院を受診してほしいと思うのは、病気が早く改善できることもありますが、ご家族の方が一緒に医師からアドバイスを受けることで、周囲の病気に対する誤解やすれ違いが原因となって症状を悪化させて行くことを防ぐためです。


●心配はしていても、無理には干渉しない

 うつ病の患者さんへの接し方などをアドバイスすると、ときどき極端になる方がいます。例えば、「うつ病では患者さんを励ましたりするとかえって患者さんを追い込むのでやめてください」というと、まったく励まさず声もかけなくなったり、また「本人がやりたくないということはなるべく無理にはやらせないでください」というと、まったく放っておいたりします。しかし、励まさないといっても、単純に「がんばれ」というような励ましがだめなだけであって、「うつ病は必ずよくなる病気で、時間はかかっても、徐々によくなっていくから焦らずにゆっくり行こう」というくらいのことをいってあげるのは良いことだと思います。また、症状がある程度回復してくれば、多少患者さんが抵抗を示しても、ちょっと近くのスーパーまで散歩に誘うことなども悪くはありません。

 ご家族が患者さんをサポートする場合、過度に介入し過ぎるのもよくないのですが、放っておき過ぎるのもかえってはれものに触るように感じて患者さんを孤独にさせます。あくまでも普通に接してあげることが大切です。心配はしているけれど、干渉はしないという、ちょうどいい距離感の家族の思いやりは、患者さんにとっては何よりものサポートになります。


●まずは、周囲の方がうつ病を理解してほしい

 患者さんを見ているとはがゆいという気持ちは分かります。怠け病に見えるのも仕方ありません。普通の顔をして、からだに特に異常もないのに、朝グズグズして会社に行かない、こういう状態を素直に受け入れられないのも無理はありません。しかし、うつ病は決して怠け病でもなく、また本人の性格や物の考え方によるものでもありません。からだの病気であり、これを改善するために病院での治療が必要であるということを理解してほしいと思います。心底そう思っていないと、見守る側のこころの負担も増えますし、またいくら言葉で「大丈夫、今は好きにしていいよ」といっても批判的な気持ちが患者さんに伝わってしまいます。

 うつ病は治療を受ければ必ず治る病気です。まずは、ご家族や周囲の方がこのことをしっかりと理解して、患者さんが落ち着いて治療に取り組める環境をサポートしてください。

うつ病の場合、ご家族が病院での受診を積極的に勧め、そして治療をサポートしてあげてほしい、これが私の本音です。

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